はじめに
検品作業の途中、「これ、本当に合ってるかな」と手を止めたことはありませんか。
ハンディターミナルもなく、Excelの一覧表を横目に見ながら、バーコードを目で追って照合する。1件ずつ確認するうちに集中力が切れ、「さっきのチェックしたっけ」という不安が積み重なっていく。
私自身、倉庫・現場業務の経験の中でこの「照合作業のストレス」を何度も感じてきました。VBAでExcel業務を改善してきた延長線上で、「もっとシンプルに解決できないか」と思い始めたのが、このアプリ開発のきっかけです。
この記事では、バーコード照合アプリをゼロから自作した理由と、v0.1でできること・できないことを正直にお伝えします。
照合作業の「じわじわとしたストレス」に気づいたとき
倉庫や物流現場で働いたことがある人なら、こんな場面に心当たりがないでしょうか。
入荷した商品を、注文書やピッキングリストと1件1件照合していく作業。「この商品に、このラベルは合っているか」「この品番は、この棚番と対になっているか」——バーコードを目で追いながらリストと突き合わせ、「よし、合ってる」を繰り返す。
10件なら問題ない。でも50件、100件になってくると、集中力が少しずつ削られていく。
「さっきのチェック、本当にしたっけ」「この数字、見間違えてないか」——そんな不安が積み重なり、結果としてダブルチェックや三重確認が発生する。確認のために確認が必要になるという、効率の悪いループです。
ミスが怖いから丁寧にやる。丁寧にやるから時間がかかる。時間がかかるから疲れる。疲れるからミスが出る。
このサイクルを何度も目にしてきました。そして自分自身も、現場の一員としてこのストレスを体感してきました。
目視確認が抱える3つの限界
①集中力に依存している 人間の目と注意力は有限です。件数が増えるほど、ミスの確率は上がります。これは作業者の能力の問題ではなく、目視確認という方法の構造的な限界です。
②「組み合わせの正しさ」が確認しにくい 「この商品とこのラベルのペアは正しいか」「この品番はこの棚に対応しているか」という組み合わせの照合は、目視では特にミスが起きやすい。片方を見ているあいだに、もう片方の記憶があいまいになるからです。
③記録が残らない 「どの組み合わせをいつ確認したか」がデータとして残らない。何かトラブルがあったとき、確認の証跡を追えない。
「専用機器を入れるほどでもない」現場の現実
「じゃあ専用のハンディターミナルを使えばいい」という話になります。確かにそれが理想です。でも現実には、こういうケースが多い。
- 月に数回しか発生しない作業のために、高価な専用機器は導入しにくい
- 小規模な倉庫や個人事業では、IT投資の優先順位が低い
- システム担当者がいないため、導入・設定・メンテナンスに不安がある
「本格的なシステムを入れるほどではないが、目視だけでは不安」——この中間の課題に応えるツールが、実は少ないのです。
なぜ既存ツールではなく、自作することにしたのか
このアプリが生まれた背景——大きな目標と、小さな第一歩
もともと私が考えていたのは、五感情報を扱えるAIツールの開発でした。人の感覚に近い形で現場を支援できるツールを作れないか、という構想です。
ただ、汎用的なAIツールの開発は競争が非常に激しい領域です。技術力・資本・開発リソースで勝る企業や開発者がすでに多数存在する。そこに正面から挑むのは現実的ではないと判断しました。
そこで方向を切り替えました。
「汎用AIではなく、自分の経験が活きる現場に特化したツールを作る」
倉庫・物流現場の業務経験があり、何がミスにつながるかを肌感覚で知っている。その強みを活かせる領域で、専用ツールを積み上げていくほうが、長期的に価値を出せると考えたのです。
「まず動くものを作る」という判断
AIを活用した高度なツールへの道筋は持ちつつ、最初のステップとして意図的にシンプルな照合アプリを選びました。
理由は明確です。
- 現場で最も頻度が高く、かつ改善インパクトが大きい課題が「照合ミス」だった
- AIによる判断が必要な領域に進む前に、基本業務をアプリとして成立させることが必要だった
- シンプルな構成で現場テストを重ねることで、「何が本当に必要か」を明らかにできる
開発にあたっては、CodexやClaude Codeといった最新のAI開発支援ツールを活用しました。これにより、アイデアを素早く形にし、現場での検証サイクルを速く回すことができています。
今回のv0.1は、AIによる高度な判断機能を持たない、シンプルな照合アプリです。ただしそれは、次のステップに向けた土台を確実に作るための選択でもあります。バーコード照合という基本動作を現場で安定して動かせるようになった先に、より高度な機能の実装を見据えています。
v0.1でできること——現場テスト20件以上でわかった実際の使い勝手
基本の照合フロー
v0.1の照合フローはシンプルです。
- 1回目のスキャン:基準となるバーコードを読み取る(品番、棚番など)
- 2回目のスキャン:照合対象のバーコードを読み取る
- ペアマスタと照合:あらかじめ登録した
pair_master.csvを参照し、この組み合わせが正しいかを即時判定 - 結果を表示+音で通知:OK/NG/CHECKの3分類で判定結果を表示し、それぞれ異なる音で通知
- 履歴に保存:判定結果を自動的にローカル保存
「2回読んで、即座に判定が出る」という流れが、ボタン操作なしで進むように設計しています。
OK / NG / CHECK——3分類の意味
判定は3種類に分かれています。
| 判定 | 意味 |
|---|---|
| OK | ペアマスタに登録された正しい組み合わせ |
| NG | 明らかに誤った組み合わせ(マスタに存在しないペア) |
| CHECK | 要確認(条件付きで認められるケース、例外処理など) |
単純なOK/NGだけではなく、現場では「明確なエラーではないが、念のため確認が必要」なケースも発生します。そのためのCHECKという中間判定を設けたのが、このアプリの特徴の一つです。
また、判定理由も画面に表示されます。「なぜNGなのか」が分かることで、その場で原因を確認できます。
音による通知が現場で思った以上に効く
視覚的な表示に加えて、判定結果に応じて異なる音が鳴る仕様にしています。
現場では、画面をじっと見続けながら作業することが難しい場面もあります。「音でOKが分かれば、次のスキャンに移れる」という使い勝手は、実際のテスト中に「これは必要だな」と実感した機能です。
現場テスト20件以上で確認できたこと
実際に20件以上の照合作業をこのアプリで試した結果、以下を確認できました。
①OK/NG/CHECKの3分類が正常に動作した マスタに登録済みの正しいペア、存在しないペア、要確認ケースのすべてで、意図した判定が出ることを確認しました。
②履歴保存とCSV出力が実用レベルで動いた 照合した結果が自動的に履歴として保存され、CSV形式で出力できることを確認。「どの組み合わせをいつ照合したか」という記録が、そのままExcelに取り込める形で残ります。VBAで管理されている方にとっても使いやすい形式です。
③オフライン環境でも問題なく動作した ネットワーク接続がない倉庫内でも、ローカルのマスタCSVを参照して判定が動くことを確認しました。電波状況に左右されない点は、現場運用上の大きな安心材料です。
動作環境と対応形式
- 動作環境:Androidスマートフォン
- 照合マスタ:
pair_master.csv(ペア登録形式) - 作業者ID:入力機能あり(履歴と紐付け可能)
- オフライン動作:対応
v0.1でできないこと——正直に書く
現時点での限界も、包み隠さずお伝えします。
OCRや画像認識には非対応 バーコードの読み取りに特化しています。手書き文字の読み取りや、画像からの情報抽出はv0.1の対象外です。
複数人での同時利用・クラウド同期は非対応 現在は1台のAndroid端末で単独使用する前提です。チーム全体で結果をリアルタイム共有する、といった使い方は対応していません。
iOSには非対応 現時点ではAndroid専用です。
マスタの編集・更新はアプリ外で行う必要がある pair_master.csvの作成・更新は別途行う必要があります。アプリ内からマスタを直接編集する機能は現時点ではありません。
これらは「まず現場で動かすことを最優先にした」結果として意図的に省いたものです。過剰に複雑な構成を避け、基本業務を確実に動かすことを優先しました。
今後の改善予定(v0.2以降のロードマップ)
現場テストの結果をふまえ、以下の改善を優先的に進める予定です。
| 優先度 | 内容 |
|---|---|
| 高 | 連続スキャン時の読み取り安定性向上 |
| 高 | マスタCSVの更新・管理をよりシンプルに |
| 中 | UI改善(現場での視認性・操作感の向上) |
| 中 | iOS対応の検討 |
| 低〜検討中 | VBA・Excelとの連携強化(既存の管理表をそのままマスタとして使える仕組み) |
| 低〜検討中 | 複数端末での履歴集約 |
| 将来 | AI判定機能の追加(異常パターンの検出・学習など) |
特に「VBA・Excelとの連携」は、既存のExcel管理をされている方にとって重要な機能です。「今使っているExcelのマスタをそのままアプリで使えるようにしたい」というニーズは、テスト中にも実際に声として上がっています。
また将来的には、今回の照合アプリを土台として、AI判定機能(異常パターンの自動検出など)の追加も視野に入れています。まずは基本動作を確実に、その上に高度な機能を積み上げていく方針です。
まとめ:「小さく作って現場で試す」が現場DXの正しい入口
大きなシステムを入れなくても、現場の小さな課題を解決するツールは作れる。そして、実際に現場で動かしてみることで初めて分かることがある。
v0.1として形にし、現場テストで動作を確認した今、そのことを改めて実感しています。
VBAでExcel業務を改善してきた経験は、「現場の何が課題か」「何があれば作業が確実になるか」という視点をくれました。その延長線上で、「Excelの外に出る」一歩として、このAndroidアプリ開発があります。
まだテスト段階で非公開ですが、現場で動いて、現場で手応えを確認できています。
このブログでは、v0.2以降の改善も記録していきます。「現場の課題を小さく解決していく」プロセスを、引き続き発信していく予定です。

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